2006年鹿児島・屋久島の旅 ④ (2006年3月15日・屋久島3日目)

朝5時起床。窓を開け、外を見る。雲はあるけどおおむね晴れて寒さも昨日ほどではない。縄文杉登山、決行だ。

フロントに行き、昨晩女将さんに頼んでおいた登山弁当を受け取る。朝用と昼用を袋に入れて用意してくれていた。ありがたい。

車で登山道まで走る。車も人も全く居ない薄暗い山道を走り続けているとなんだか不安になる。本当にこの道で良かったのかな?なんて何度も考えた。というのも、昨日ガソリンスタンドに行きそびれてしまったのでガソリンの残量が心細かったのだ(屋久島のガソリンスタンドは全て18:00には閉まってしまう)。ここで道を間違えたらガス欠になって身動きが取れなくなってしまう…。しかし、幸いにもそんな心配は杞憂に終わり、予定より早く荒川登山口についた。

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登山口につくと車も人もそれなりにたくさん居て、皆早々と出発して行く。僕も今は使われていないトロッコ小屋を撮影して、6:45にスタート。

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最初の1時間はトロッコ軌道が続く。

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何年も前にテレビで初めて屋久島の特集を見た時に、このトロッコ軌道を通って樹齢7200年の縄文杉を見に行く…という行程に果てしないロマンを感じ、いつかは行ってみたいと強く思った。そのトロッコ軌道を歩いている実感を踏みしめながら、しかし、急ぎ足で僕は歩き続けた。何しろ登山口までバスで来ている多くの人はとっくにスタートして先の方にいる。縄文杉登山は行程が途方もなく長いので、お昼までに縄文杉にたどり着いて下山しないと日が暮れてしまい危ないと聞いたからだ。

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歩くにつれ他の登山者に追いつき、ホッとした。特にガイドをつけている登山者はガイドの木や岩についての説明を聞くたびに立ち止まらないといけないのでペースは遅い。僕は何人かの人にガイドをつけることを強くすすめらたが、自分のペースで登りたいから却下したのだ。それでも道ばたで説明しているガイドの声が耳に入って面白い話を聞けたりもした。

40分もトロッコ軌道を歩くと小杉谷集落跡が現れた。僕は小杉谷小学校校庭跡の石段の上で朝のお弁当を食べた。すっかり日も登って空は青い。天気に恵まれたことに感謝しながらおいしいおにぎりをほおばった。

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お腹もふくれた所で再び歩き出す。トロッコ軌道は全長8km。小杉谷集落跡はその半分ほどのところでしかない。しかもトロッコ軌道の終点が登山道の始まりなので、ここでぐずぐずしている訳には行かないのだ。しかし、トロッコ軌道の途中から意外な落とし穴に気づく。前日の雨や雪でトロッコのスノコ状の板がヌルヌルと滑ってしまいとても歩きにくいのだ。ただの線路の所では普通に歩こうとしても変に足が滑って思うように進まないし、手すりの無い線路だけの橋の上は足場が細い上にツルツル滑るので冗談ではなく死の恐怖を味わうことになる。文明社会における日常生活がいかに死とかけ離れているか…とか考えながら一歩一歩生の喜びを実感して進んだ。

トロッコ軌道も終盤に差し掛かるとかなり標高が高くなるので昨日の雪が残っていて余計に歩きにくくなった。空気も冷たくなってきたけど、歩き続けているのでむしろ暑いくらいだった。

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トロッコ軌道の終点には8時頃着き、一休みして登山道を登り始めた。ここからはけっこう本格的な登山なのだ。しばらく登るとウィルソン株というものすごく大きな切り株があった。空洞になっているこの切り株は中に入る事ができるので内側から写真を撮ってみた。あまりに大きくて杉の切り株だという事を忘れてしまうほどだ。

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登山道は岩場や階段状の大きな木の根を頼りに登ったりする所もあれば、人工の木の階段が敷かれている所もある。そして、一見登り易そうなこの木の階段が実はものすごい恐怖だった。というのも、昨日の雪が積もった上をたくさんの人が歩くので、僕らが登る頃にはカチカチのアイスバーンになっていたのだ。しかも階段の上にかまぼこ状にアイスバーンが出来ているのでちょっとバランスを崩すと滑って急な階段を真っ逆さまに落ちそうになる。ここにも死の恐怖があった。僕は本格的な登山靴を履いて行ったのだが、ここまで雪が降っているとは思わなかったからアイゼン(滑り止め)は装着して行かなかった。だから、階段があってもなるべく避けて横の地面をよじ上ったりしていたのだけど、どうしても階段でないと登れないコースも多くあり、そういう所は死の平均台のような階段を一歩ずつ登ったり降りたり(登山とはいえ階段を下る箇所もあり、そういう所はさらにコワい)した。しかも僕は背負っている荷物がかなり重かったのでバランスを取り続けるのが非常に難しかったのだ。
そういう訳で、登山道に入ってからは登山に集中しないと命さえ危なかったので写真はあまり撮れなかった。

登山中翁杉・大王杉・夫婦杉などもあり、休憩がてら立ち止まってその大きさに見入ったりもした。

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これらより圧倒的に大きい縄文杉とは一体どれほどのものなのか…。その期待だけが疲れと恐怖を吹き飛ばした。

僕は一人で登山をしていたので基本的に自分のペースで登った。たくさんの登山者を追い越し、何人かの登山者には抜かされた。そして、僕と同じくらいのスピードで登り続けていた登山者といつの間にか話しながら一緒に登っていた。女の子3人と年配の男性がひとり。もう一人若い青年がつかず離れず…という集団に僕も混じっていた。最初は何か大学のサークル(と引率の先生)かと思っていたこの集団、実は赤の他人の集まりだったらしい。シホとルカという二人の大学生の女の子は最初から一緒に旅をしている友だち同士で、そこにフェリーで知り合った19歳の女の子、そして“教授”という(僕が名付けたのだが…)年配の男性が合流したとのこと。そんな話をしながら登山していると疲れも幾分まぎれたのでとても助かった。

そして11:00頃、とうとう僕らは縄文杉まで登る事が出来た。途中何度も死ぬかと思ったけど、僕らは誰も怪我する事無く到着できたのだ。ぽっかり開けた青空にどっしりと伸びている縄文杉は噂通りの存在感で、本当に会いにきて良かったと思った。ずっと憧れ続けた縄文杉とその登山行程を実感できた幸せを噛み締めながらしばし見入ってしまった。

ひとしきり縄文杉との出会いを喜んだあと、少し先の休憩舎でお昼ご飯を頂いた。この辺りは陽当たりも良くて休憩舎の裏には鹿も来ていた。人間に慣れていて、何か食べ物をもらえないかとつかず離れずウロウロしているのがかわいかった。

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休憩も出来たしお昼も食べたので、正午前に僕らは下山を開始した。予定より早めで嬉しい。登りの時に恐怖だった死の階段は日の光によって氷が溶けたり、誰かが雪かきをしてくれたらしく、下りは随分楽だった。来た道を下るのかと思って途方に暮れいていたので、これは本当に嬉しかった。おかげで随分はやく下山する事ができた。

登山口まで降りてから再びトロッコ軌道を歩く。トロッコ軌道も朝とは違い、木がすっかり乾いていたので細い橋も、もうこわくなかった。

また、トロッコ軌道から一歩ワキにそれると苔むす森になっていたりして、白谷雲水峡に行けなかった僕ももののけ姫の世界に迷い込む事が出来た。

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だいぶ歩いた頃、右手にエメラルドグリーンに輝く地帯を発見。何かと思ったら沢が流れているのだ。こんなきれいな緑の沢は見た事がない。僕らは沢まで降りてみることにした。

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沢のほとりでしばし休憩。ずっとここに居たいと思えるほどきれいでのどかな場所だった。

あまりゆっくりもしていられないので、再びトロッコ軌道を下る。途中の橋からは信じられないくらい大きな岩ばかり(周りの木の大きさと比較してほしい)の沢やきれいな小川も。

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小杉谷集落跡も過ぎて、さらにトロッコ軌道の始点に戻る途中、電気工事に遭遇。そしてなんとトロッコの線路を使用している電気工事車両を見る事が出来た。

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野生の猿や朽ちた車両も見る事が出来た。自然と同様に廃線・廃墟好きの僕にはたまらない登山コースだった

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16:00頃、僕らは荒川登山口まで戻る事ができた。寄り道したりのんびりしたりしたけど9時間で往復する事ができたことになる。僕以外の人はバスで登山口まで来ていたのだがバスは5時まで来ない。というわけで、僕の車にあいのりして下山することになった。人数があぶれたのでシホとルカはヒッチハイクして下山していた。なんとも逞しい!!

僕はみんなをバス停で下ろした後、少し海を見に行き、山に落ちる夕日を見た。そしてガソリンを満タンにしてレンタカーを返却。この車には本当にお世話になった。

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そして宿に戻って夕飯とお風呂。ビールも一本頂いて天国だった。

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その後、宿が近かったシホとルカと少し外で飲もうということになって外出。近場にあった「つぼね」というきれいな飲み屋でいくつか料理を頼んで色々話しながら僕はたくさん三岳を飲んだ。三岳は僕が芋焼酎にハマるきっかけになったお酒で、今でも一番好きなお酒。しかし、昨今の芋焼酎ブームで入手が困難になりつつある。そしてその三岳の生産地こそがこの屋久島なのだ。そういうわけで、購入制限こそあるものの飲み屋にはいくらでも三岳がある。結局最終的に何杯飲んだかは忘れたけどとにかくたくさん飲んで22:00頃お開きにして僕らはそれぞれの宿に戻った。

今回の旅の一番困難な目標を無事達成できた日のお酒は本当に気持ち良い酔いをもたらし、僕は宿に帰って早々に眠りこけた。

5日目につづく

 


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