昨日アップした「MacでFinderのウィンドウをランチャーとして使う方法」を書きながら、ふと思ったことがあります。それは、この手のTipsは理解して実用レベルで使いこなすには最低限のITリテラシーが必要である、ということです。
本当は、パソコン(=コンピュータ/Mac/Windows等。ここではあえて「パソコン」と呼びます)をあまり理解していない人にこそ理解して活用してもらいたいTipsとして書いていても、そういう人には届かず(なぜかというと、パソコンが苦手な人は、そもそもパソコンに関心が薄いことが多いんですよね)、むしろ、すでにある程度詳しい人がより詳しくなるための情報としてしか活用されないことが多いと思うんです。
そのようにして、両者のITリテラシー差はますます拡大しつつありますが、その差=溝を「キャズム」と名付け、それを少しでも解消できないものか?ということを考えてみたいと思います。
ちなみにキャズムの語源は、少し前に永江一石さんがブログで書かれていた「キャズム論(ネットからマジョリティへの認知にはキャズム(溝)が深すぎるという講義 | More Access! More Fun!)」に共感したので、そこから引用させていただいています。
意外と多い「パソコンを理解できてない人」
最近たくさんの人にMacをレクチャーする機会(仕事ではなく趣味で…ですが・笑)があるのですが、その中で感じているのは、意外とパソコンの使い方の基本を理解ができていない人が多いということです。
例えば
- ツリー形式のディレクトリ構造が理解できていないので、今見ているファイルがコンピューターのどの位置(階層)に存在しているのか分からない
- ファイルとアプリの関係が分からない
- HDDとメモリとCPUの関係が分からない
- SSDとHDDの違いが分からない
- 何MB以上のファイルをメールに添付してはいけないのか、よく分からない
- HDDがいっぱいになったらどうすればいいのか分からない
等々…
一方で、既にその辺を理解して自然にパソコンを使っている人たちからすると、理解できていない人の感覚をなかなか想像できず、「なんで理解できないのか?」「やる気がないだけじゃないのか?」という反応が多い印象です。しかし、実際に理解できない人は(たとえパソコンを所有して日常的に使っていても)、やはり理解できておらず、しかも分かっている人たちの反応にプレッシャーを感じて「分からない」とも言いづらく、どうしたら良いか分からないまま、その差は開くばかり…という状態になっているのが現状だと思います。そういう層をターゲットにして、「今さら聞けない◯◯」というような本も多数出ていますが、本当に理解できていない人に対して的確に啓蒙できていないと思います(できていれば分からなくて苦労している人はもっと少ないはず)。
「理解できていない人」が分からないままではダメなのか?
こういう話をしたときに「理解できていない人」たちからの一番多い反応は、「私にはそこまで(パソコンやインターネットを使う)必要ないから」というものです。
もちろん個人の自由なのですが、余計なお世話を前提に言うと、やはりある程度理解して使いこなした方がいいんじゃないかな?と思っています。
「理解できていない人」は使いこなせている状態をイメージできない
一番の理由はこれです。「パソコン(+インターネット)を使いこなす」ということがどういう状態か、ということを分かった上で「自分には必要ない」と判断するのはいいと思いますが、使いこなしていない人(つまり、イメージできていない人)は客観的に「自分に必要かどうか」を判断できていないと言えます(英語が話せない人が「私には英語は必要ない」と言うのにちょっと似てる)。
実際には、使いこなした結果「必要なかった」という人は(僕が知る限り)ほとんどいないので、やはりこの手のテクノロジーは、いったん理解したら手放せないほど便利で魅力あるものであり(それを「依存」と呼んで懸念する人もいますが、そんなことは全然ありません)、使っていない人は、その便利さを知らないから「必要ない」と思っているだけなのです。
確実に言えるのは、デジタルのテクノロジーは使えこなせば使いこなすほど生産性が上がり、お金や時間を節約することもできるということです(もちろん、間違った使い方〜たとえば有料のソーシャルゲームにハマる、など〜をすれば、お金や時間を浪費してしまいますが、それはやはり「使いこなしているレベル」に達していないことが原因なのです)。特に年配の人にデジタルの必要性を説くと「自分は金も時間も余裕があるから、これ以上節約などは必要ない」と返されることが多いのですが、あえて言うなら、それはまったく利己的な考えで、金も時間も余裕があるなら、なおさら(パソコンやインターネットを理解するなどの)努力をして、浮いたお金を子や孫の世代に投資したり、あるいは他の国の食べ物のない人にでも寄付するべきではないんだろうか?と思うのです(もちろん最終的には個人の判断ですが、僕の勝手な見解として)。
テクノロジーはユーザーが理解できていることを前提に進化を続けている
パソコンやスマートフォン(iPhone/Android等)、タブレット(iPad等)は日々進化を遂げており、一般的には「どんどん便利になっている」と思われています。実際便利になっていますが、それは正確に言うと「すでに理解して使いこないしている人にとって、更に便利になっている」のであり、もともとイマイチ理解していなかった人にとっては「どんどん分かりにくくなっている」とも言えると思っています。
たとえば、最近よく「年長者はパソコンは苦手だけどiPadなら理解しやすい」という話を聞きますが、僕はそう思いません。単体で比較すれば確かにそうなんだと思いますが、iPadのデータを管理するのにはパソコンが必要ですし、厳密に言うと、iPadだけで完結して使い続けることは難しく、長期的・総合的に考えるとiPadを導入することは返って環境をフクザツで分かりにくく複雑にしているとも言えるのです(なので年長者でもパソコンを最低限理解して使いこなす程度のITリテラシーは必要だと思っています)。
僕が自然にパソコンを理解できたのは、まだソフトウェアもハードウェアもシンプルだった時代にパソコンに触れ始め(僕の場合は2000年頃。最初に触ったOSはMacOS 8)、手探りで試行錯誤したからです。当時は、特にハードウェア(Mac本体)が、不完全なのに高価だったので、自分でバラバラのパーツ単位で買い集めて「自作Mac」を作ったりしたもので、そういう経験を通して各ユニットの働きを理解して、必要な環境を自分で構築して使いこなせるようになったものでした。
反面、現在は当時とは比べ物にならないほどハイスペックなパソコンが安価で買うことができ、MacBook AirやMacBook Proなど、自分で一切分解もできないパソコンが主流になりつつある上に、OSもMacの場合はOS X(10)以降大きく変わり、ユーザビリティの追求のために、様々な機能が日々追加されています。この加速度的進化により、理解できていない人が一層分かりづらくなってしまっているのが現状だと思うのですが、かと言って、今から彼らが古い環境(MacOS 8やWindows 95など)を使うことは不可能なので、なんとか現在の環境の中で理解して、キャッチアップしていくしかないのです。
分かっている人でも「分からない人に説明すること」は難しい
一方で、パソコンを理解して当たり前に使っている人でも、理解できていない人に分かりやすく説明することは意外と難しいものです。説明しているうちにイライラしてしまったりするものですが(たとえば親に教える時とか…経験ありませんか? 僕はあります・笑)、よくよく考えると、これほど人に教えることが難しいものもなかなかないのではないかと思います。パソコンの使い方を人に説明するのは、どうしてこんなに難しいのでしょうか。
パソコンの世界は「概念的」
一番の理由は、パソコンの中の世界が「概念的」だからだと思います。つまり、我々はパソコンを使って何か(メールや調べもの・チャット・文章作成・音楽作成・イラスト作成 等々)をするとき、その画面の中の機能をビジュアル的にイメージして使っており、そのイメージはユーザーの主観によるもので、時には漠然としているので、そのイメージを人に説明することが難しいのだと思います。
たとえば、ある程度絵の素養がある人にIllustratorやPhotoshopを教えるのは、ビジュアル的要素が多い分、比較的簡単ですが、むしろ意外とFacebookを使ったことのない人に「Like(いいね)」と「Share(シェア)」の違いや、「新規投稿」と「投稿に対するコメント」の違いを正確に説明するのは非常に難しいのです。
なので、分かっている人からすれば非常に簡単な、例えば「デジカメで撮った写真をiPhotoでリサイズして書き出してjpg保存してfacebookに投稿する」だけの作業も、人に教えるのは非常に難しく、教えているうちにイライラしてしまうのです。僕はこのイライラは「教えてもらう側の理解度の低さ」が原因なのではなく、むしろ「教える側が、思った以上にうまく教えられないこと」によるところが大きいと思っています(というわけで、教えてもらう人は相手がイラついても申し訳ない気持ちになる必要はありません)。
教える人にとって「教えやすいリソース(教材)」を作りたい
逆に言えば、「分かっている人」が教える時に利用しやすい(教えやすい)教材のようなものがあれば、教える人もイラつかず、教えられる側も理解しやすくなるので、キャズムを埋めるのに有効なのではないか?と思うのです。というわけで、そんな教材(というのは大げさですが、助けになるもの)を作りたいと考えています。まあ、趣味の範囲で、当面は当ブログ上で発信していくので、どのくらいのペースでできるか分かりませんが、自分の頭の中にあるイメージを少しずつでもビジュアル&文章化していきたいと思っています。
まとめ
このキャズムを埋める作業は、ある意味で前人未到の大業ですが、あえてそこに使命を感じるのはなぜかと言うと、それは僕が「イラストレーター」だからです。
イラストレーターは「絵を描く人」だと思われていますが、語源的には「Illustrateする(説明する)人」ということになります。つまり、こういう概念的で、言葉では説明しきれない事柄をビジュアル化して分かりやすくするのがイラストレーターの仕事であり、そのイラストレーターの中でも比較的パソコンに詳しい(という自負のある)僕がやるべきライフワークのひとつと言えると思うのです。
また、僕がここで「理解できていない人」に向けて発信したとしても、彼らは僕のブログにアクセスすることもできないばかりか、そもそも 「理解できていないこと」を認識/自覚すらしていない場合も多々あるという問題もあるのですが、「いかに読んでもらうか」という方法論は発信をしたあとに 考えることにして、とりあえず近々書き始めてみようと思います。なぜなら、このあたりのリテラシーを底上げしていくことが日本の未来を明るくすると信じているからです。
コメント
コメント一覧 (7件)
初めまして。
たかはしと申します。
よろしくお願いいたします。
まず、「os」「ファイル」「ファインダー」「ツール」
この辺の理解いもない状態で、まずパソコンの基礎の何から手をつけていけばよろしいでしょうか??
効率よくは図々しいかもしれませんが、勉強の方向がわからない状態を解消したいです。
とりあえず勢いで「MacBook Pro」を購入。
ご教授くださいませ。
たかはしさん
はじめまして。コメント、ありがとうございました。
MacBook Proをご購入されたとのこと、おめでとうございます! MBPは本当に良いコンピュータだと思います。今、僕がこれをタイピングしているのも、まさにMBPです(2012年のモデルですが)。
さて、もしかすると期待されている回答とは異なるかもしれませんが、もっとも効率的な方法の第一歩は「そのパソコンで何をしたいのかを明確にする」ことだと思います。
というのも、同じパソコンを使っても「プログラミングをする」のと「音楽制作をする」のでは、全く方法が違っており、プログラミングが世界一上手い人でも、おそらく音楽制作ソフトはあまり上手く使えないからです。ですので、たかはしさんがそのMBPをどういったことに最も活用したいのかによって、どういったソフトをどのように使うべきかが明確になり、そこまで分かれば、必要なソフトの教本を読み込んだり、その道のエキスパートの模倣をする等、具体的かつ効率的な方法が見えてくるんだと思います。
ちなみに僕の場合は20代前半で音楽制作のためにMacを導入し、その後デザインやイラスト制作もMacでしたいと考え始めて、IllustratorやPhotoshopなどのソフトを独学でマスターしました。そこまでくると、他のソフトの使い方やMacの基本的な操作等も共通点が多いので、自然に(そして加速度的に)理解が深まりました。
というわけで、是非「Macを使って○○することを極めたい!」と思えるものを明確にしてください。その先は自ずと見えてくるのではないかと思います。
Macライフ、楽しんでくださいね!!
即時の回答ありがとうございます。
今後の参考にさせていただきます。
たかはし
初めまして。しょん、と申します。
現在、ipadでイラストを描いているのですが出来ることの幅が狭くPCで描くべきなのだろうか、と悩んでいます。
学ぶ為にも本屋に行ってみたりするのですがよく分からず毎回諦めてしまいます。
PCで絵を描きたいけど、何から初めて何を揃えたらいいのかがよく分かりません。
イラスト関係のお仕事をしてみたくても概要欄にはイラストレーター(.ai)が必要。などと描いてありipadではどうにも無理そうで…。
ブログの内容とは遠い質問をしてしまいすみません。周りにPCに詳しい人がおらず困っています。
でも、PCを扱えるようになりたいです。
よろしければお話を伺いたいです。よろしくお願いします。
しょんさん、ありがとうございます。
現在時間の余裕が全く無いので、とりあえず簡単にリプしますが、PCのほうが絶対にいいです(特に仕事として描きたいなら)。↓こんなツイートも過去にしてます。ご参考まで。
https://twitter.com/Genki119/status/1103308721277542400
お返事が遅れました。
いつか仕事に出来たら、と思っているのでPCを買おうと思います。
参考ツイートもたいへん有難いです。
お忙しい中ありがとうございます。
お仕事頑張ってください!
はじめまして!
私はITエンジニア (インフラ系) をしているのですが、記事でおっしゃっていること、すごく共感できます。。
一般の方からパソコンについての相談を受けることがあるのですが、「何が問題なのか (何に困っているのか) 分からない」ことが多く、答えようがないケースがあったりして、とても困ります…
根本的な話として、パソコンやインターネットなどのIT技術については『イメージを持つこと』がとても重要だと思っています。
私自身の頭の中にはっきりとしたイメージを持てているからこそ、概念が手に取るように分かったり、人に説明できたりします。
ですが、パソコンが苦手な人は、イメージが持てていないために、専門用語などの「言葉」に惑わされたり、「画面表示 (UI)」などの「見た目」に惑わされたりします。
大事なのは、言葉でも画面表示でもないのに。
「いかに自分の頭の中にあるイメージを相手に伝えられるか」というのが一番重要なので、「ただ詳しい」だけではダメで、「可視化する力」が求められている気がしますね。