アメリカ発の配車サービスアプリ「Uber」がベルリンで禁止に

【2014年8月15日執筆】

今朝見て、ちょっと気になったニュースについて。


目次

「Uber(ウーバー)」アプリがベルリンで禁止に

なんとなくWebで朝のニュースを眺めていたら、気になるニュースがありました。ハンブルクに続き、ベルリンでもウーバーが禁止になるとのこと。複数のニュースサイトでもけっこう大きく報じられています。

そもそも「Uber(ウーバー)」とは

ウーバーは、一時期日本でもリムジン配車の5,000円サービスで話題になっていたので、その名を知っている人も多いと思いますが、ウーバー自体はハイヤー車両を所有しているわけではなく、アプリを開発し、ハイヤー業者と乗客を結ぶサービスを提供している会社です(つまり、AirbnbのようなP2Pのマッチングサービス)。サンフランシスコで2010年に創業以来、L.A.などで大人気になり、急速にユーザーを増やしつつアメリカ国内のみならず世界(今日現在で43カ国)にサービスを拡大中(総売上額は10億ドルを超えてるとか)ですが、一方で最近韓国でウーバーのアプリが禁止されたり、イタリアやフランスで反対運動もあるようで、アメリカ外での展開で苦労している面もあるようです。

⬇参考記事

  • 配車サービスのウーバー、1230億円調達―企業価値は1.8兆円 – WSJ
  • 欧州タクシー運転手、ウーバーの配車アプリに抗議 – WSJ
  • 配車アプリの「ウーバー」、ソウル市も禁止へ – WSJ

ベルリンで禁止される理由

禁止される理由ですが、FORTUNEによると

ベルリンの議会は声明の中で「無免許のドライバーの無免許のタクシーが乗客を乗せることによる、公共交通における受け入れがたいリスクによるもの」と決定を説明したが、そこには「(既存の)タクシー業界を守るためでもある」とも付け加えられていた。

The Berlin Senate said in a statement explaining its decision Wednesday that it was an unacceptable risk to public safety that passengers be transported in unlicensed cabs by unlicensed drivers. But it added that “the basic thought of protecting the taxi business also plays a role.”

引用元: Uber’s app banned in Berlin

という感じのようです。

ウーバーは特別な免許がなくてもドライバーになれる

上の訳で「無免許」と訳しましたが、これは普通運転免許ではなく、タクシードライバーとして仕事をするための専用免許のこと(日本でいうと第二種運転免許)でしょう。

これに関しては、以下の説明が分かりやすいと思います。

普通自動車の運転免許証と、一定サイズ以上の車を保有していれば誰でもタクシーの運転手になれるというもの。(※簡単な審査あり)

引用元: シリコンバレーによろしく: Uberの本質は高級車ではなく、低価格タクシー(uberX)にある

ベルリン当局が問題にしているのはこの点で、つまり素人のタクシーの増加による危険な事故・事件の発生を防ぐのが目的のようです。

既存のタクシー業界を守るため

さらに、声明でも言われている通り、「タクシー業界の仕事を守るため」という目的もあるようで、僕の個人的見解からすると、こちらの意味合いの方が強いのではないかと思います。

というのも、ヨーロッパ諸国はアメリカに比べて(良くも悪くも)古いシステムや体制を維持しようとする姿勢が強く、前述した通り、イタリアやフランスなど欧州内の他国でもウーバーに対する反対運動や懸念の声は強いからです。

ドイツとシリコンバレー系企業の関係

もうひとつ個人的な印象として思うのは、「ドイツとシリコンバレー系企業の相性」の問題です。

Googleの例

特にドイツは自国の産業と個人情報等プライバシー保護の意識が高く、Googleに対する反発感情が強いという現状があります。これに関しては、たとえばGoogleマップでヨーロッパ全土を表示させて、ストリートビューを見てみると、実感を伴って理解できると思います。

 アメリカ発の配車サービスアプリ「Uber」がベルリンで禁止に ニュース ※青い部分が、ストリートビューがカバーしているエリア(クリックで拡大)

⬆こんな感じで、イギリス・フランス・イタリア・スペイン等をはじめとする、主要国のほとんどは、ほぼ全土をカバーしているのに対して、ドイツだけはベルリン・フランクフルト・ミュンヘン・ハンブルク等の主要都市周辺のみに限定されているのがわかります。更に実際にストリートビューで街並みを見ても、ぼかしで見えなくなっている建物がたくさんあります(住民からの要請でGoogleがオプトアウトしている)。ドイツ人のGoogle嫌いの分かりやすい一例で、ドイツ社会のそういった関心や意識の高さに関心させられますが、一方で在独の外国人として、ドイツ内で知らない場所に行く時に不便なので、もうちょいなんとかして欲しい…という思いも正直あります(笑)。

⬇参考記事

今後も米系テック企業がドイツを攻略するのは簡単ではないかも

なので、今回のウーバーの件についても、これがサンフランシスコ発の米系ベンチャーであることが反発材料になっているのは否めません。

ドイツには、Drive NowCar 2 Goなどのカーシェアリング・サービスも浸透しており、こちらもある意味では既存のレンタカー業界の競合となっていますが、特に規制の対象になっていません(ちなみにDrive NowCar 2 Goは両社ともドイツの会社)。既得権益としてのタクシー業界と当局の距離感の問題もあるのかもしれませんが、もしウーバーがドイツ(あるいは欧州)発のサービスだったら、あるいはベルリンのスタートアップによるウーバーと同種のサービスがあったとしたら、意外と今回のような規制対象にはならなかったのではないかとも思うのです。

そういう意味では、今後も米系テック企業が(特に既得権益の強い産業において)ドイツ市場を攻略するのは、(たとえば日本企業が同じことをするよりも)反発感情がある分、難しいかもしれないわけですが、ベルリンに住みながら、シリコンバレー系のTechネタにも関心がある僕としては、この点も、もうちょいなんとかなったら…と思ってしまうのです。

まとめ

そんなわけで、ベルリンではウーバー・アプリが禁止になってしまうようですが、個人的には少し残念でもあります。

ITスタートアップシーンの盛んなベルリンだからこその展開にも期待

というのも、ベルリンはここ数年、ヨーロッパにおけるITスタートアップの中心地となっており、「ヨーロッパのシリコンバレー」的な場所として、急速に発展しているからです。つまり、前述のドイツのアンチGoogle感情と裏腹に、ベルリンのスタートアップ・シーンが西海岸から多大な影響を受けているのもまた事実であり、その化学反応が近年のベルリンの文化をますます刺激的なものにしていると言えるからです。

なので、ハンブルクのような(良くも悪くも)保守的な街ならまだしも、アートやスタートアップに関して前衛的な場所であるベルリンにおいては、願わくば既存業界の保護のために当局が乗り出すより、両者が混ざって進化していくような展開が好ましいと思うので、ウーバーの禁止は残念ながら確定してしまいそうですが、今後のベルリンにはそういったシナジーを期待していきたいと個人的には思っています。


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コメント

コメント一覧 (2件)

  • ドイツの貴重な情報、ありがとうございます。参考になります。

    他国の状況は不案内ですが、日本のuberは既存のタクシー会社と提携した形態で進出しています。つまり、無免許ではなく日本の国内法に乗っ取っているようです。

    ・ハイヤー配車ベンチャー米Uberが日本参入、スマホアプリから手軽に呼び出し
    http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20140303/540667/

    > 日本も欧州や韓国に負けず劣らず既得権益の強い国ですが、その割にウーバーが禁止される動きが(僕が知る限りですが…)ないのは、寛容さによるものではなく、単純に日本人が全体的にITに疎いので、当事者たちに危機感がないだけなのでは?と思っています。

    日本でもタクシー業界内の反発はあるようですが、米国のuberとはまったく違う仕組み(適法)の運用のため、通常の競争の範囲であり、法的効力で禁止にすることは出来ないようです。

    ご参考まで。

    以下、個人的な意見ですが。

    例えば、医療や金融、教育など国が免許や許認可で縛っている業種・業態は沢山あります。無免許の医者やモグリの金融業者は、処罰されたり、営業停止になったります。

    uberが米国同様に無許可で営業してて、各国のルールに乗っ取って、営業停止になるのは、当然のこととだなあ、、と思ってる次第です。

    ※uberそのものは素晴らしいサービスだと思ってます!

  • eiji tsuruhisaさん

    コメントによるご指摘ありがとうございました。本文中でも追記させていただきました。

    日本の場合はローカライズが成功(?)しているんですね。納得です。
    一方で、日本のタクシーは非常に高いので、新興勢力との健全な市場競争によって価格の見直しやサービスの向上(IT化等)がより進むと良いのに…という個人的な期待も正直あります。

    また、ドイツの場合は、意外といい加減(よく言えば寛容)な部分も多く、割とグレーなビジネスも看過されることが多い印象があったので、今回の行政の動きに違和感を覚えた部分もありました。

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