悪い大人の見わけかた

今日は、「悪い大人の見わけかた」について書きます。

僕の半生」にも書きましたが、僕は若い頃にイラストレーターやミュージシャンを目指した時期が長く、その過程において「悪い大人」に騙されかけたことも何度もありました。特に、音楽業界やイラスト業界は志望者人口が多い分、そこにつけ込むビジネスも多様化しやすい傾向があります。

また、音楽やイラストに限らず、たとえば漫画家や絵本作家、女優・俳優業や作家・ライター等の文筆業、あるいは芸人等、何かしら「個性的な才能」を商品にするビジネスの業界には、同様に多かれ少なかれそのような副産的な産業が活性化しやすいのです。

そういった分野においては、非常に才能がある若者でも、「悪い大人」にだまされてしまうと自己実現の道が途絶えてしまいます。つまり、「華やかな産業で成功するための要素」は、「才能があるかないか」だけでなく、そういった悪い大人を「見抜く能力」のようなものも必要だと言えるのです(あるいは、見抜く能力が無くても、結果的にすり抜けられる強運が必要)。

しかし、「見抜く能力」は一定の経験値によってしか養われない、という側面もあり、その経験値を積む過程で一定数の若者が悪い大人の餌食になる、というもどかしい現実があります。このジレンマを少しでも解消するために、今後、このブログを通して、僕が経験を通して身につけた「悪い大人の見わけかた」(あるいは、それを知るにいたった経験そのもの)を、若い人に(あるいは若くなくても純粋な人に)お伝えしていきたいと思っています。

「悪い大人」の定義

まず「悪い大人」を定義したいと思います。簡単に言うと、「若者を騙して金をせしめようとする人」のことを指します。厳密に言うと、この定義はかなり多くのビジネスに多かれ少なかれ該当します(笑)が、何を「悪」とするかは、常識的な判断基準を前提にしたいと思います(具体的には、たとえば予備校ビジネスは常識的に「悪」ではないけど、「一日5分で英語がペラペラに!」という広告の英語教材はどう考えてもうさん臭い…という基準です)。

もう少し違った言い方をすると、たとえば、ミュージシャンや俳優等を目指す若者に対して「君の夢を叶えてあげよう!」とか「僕の言う通りにすれば実現するよ」という大人がいるとします(実際、多数実在します・笑)。そういう人全般が「悪い」わけではなく、(むしろ、本当に自分の才能を見抜いて惚れ込んでくれた人と巡り会えたら、一緒に目標の実現に向けて邁進するのは素晴らしいことです)その中に一定の割合で、「才能がある」と甘い言葉を囁いて、その気にさせて金をだまし取って、おいしい思いをしたい人がいるのです。

音楽業界での経験談を

では、僕の実体験を話したいと思います。これは僕の「見分け能力」のベースとなった経験でもあり、そのおかげでその後の「騙され率」が劇的に下がり、結果的にまあまあ満足できる現在があるとも言えるので、非常に感謝している出来事です。

メジャーデビューを目指した頃の話

僕が最初にこの手の業界の「世知辛さ」を知る経験をしたのは、23歳頃のことだったと思います(『僕の半生』だと、この頃→「僕の半生 -5 | フリーター編| 2000年(23歳)〜2001年前半(24歳)」)。

当時、僕は仲間とバンドを組み、メジャーデビューを目指して精力的に音楽活動をしていました。始めたばかりの頃は、演奏もヘタクソでどこからも声がかからないものでしたが、練習やライブ等の経験を重ねて“そこそこ”上手くなってくると、色んな声がかかってくるようになります(対バン要請やイベント出演の依頼等)。もちろん、これは嬉しいことなのですが、その段階から「警戒」も必要になってきます。なぜなら、声をかけてくる人たちの中に一定の割合で、前述の「悪い大人」がまぎれて来るからです。

ある時、僕はデモテープを送った某大手レコード会社から電話をもらいました。そんなことは初めてだったので、大喜びでバンドメンバーと一緒に都内の本社に行き、社内の豪華な(少なくとも当時の僕らには豪華に見えた)会議室で担当者に会いました。世間知らずだった僕らは「これはもしかすると、即メジャーデビューなんてことになったりして!」と内心ワクワクしてたのですが、担当者の提案は、それとはだいぶ違ったものでした。その内容は少し複雑なので箇条書きにします。

  • 君たちの(つまり僕らの)楽曲は、かなり良いと思う
  • しかし、経験値等の問題もあり、すぐにメジャーデビューしてフルアルバムをリリースするには早いと判断した
  • そこで、我が社がプロデュースする、若手ミュージシャンのオムニバス・アルバムに楽曲を提供してほしい
  • オムニバス・アルバムには全部で10アーティストほどが参加し、各2曲提供する
  • 我が社はメジャーレーベルだから、そのオムニバス・アルバムは我が社の流通網を使って全国に販売される
  • これはある意味で「メジャーデビュー」と言うことだってできる話である

ここまで聞いた時点では、当初の期待と既にだいぶ違うものの、それほど悪い話でもないかな…、という感じでしたが、担当者の話は更に続き、お金が絡んだ話になってきた時点で、我々は困惑し始めました。

  • このプロジェクトは、我が社にとっても若手を最大限応援するためのものなので出資は惜しまないが、無名のアーティストたちを起用する以上、リスクも大きく、社内での予算組みも厳しい
  • そういうわけで、前提としてレコーディング等にかかる楽曲制作の経費は自己負担でお願いしたい
  • また、初版の作成費も膨大にかかり、全額は予算組みが厳しいので、プレス費等リリースにかかる費用の半額を参加アーティストに負担してもらいたい
  • もちろんCDがたくさん売れればマージンが入るので、 君たちの頑張り次第では最終的に黒字になる可能性だって大いにある
  • 初版にかかる費用は600万円ほどだが、半額は我が社が負担するので、残り300万円を10バンドで折半するとして、君たちのバンドには30万円の負担をお願いしたい
  • もちろん安くない金額だが、逆にこれだけの投資で、今の君たちのレベルで全国流通のチャンスを手にできる手段は他に無いと言えるので、よく検討してほしい

…と、おおむねこんな感じでした。

帰りの電車の中で、僕らは真剣に話し合いましたが、結論は出ませんでした。「たしかに強豪ひしめくインディーズ業界から一歩抜けてメジャーシーンにステップアップするには、正攻法だけでなく、変則的アプローチや多少の投資も必要なのかもしれない…」、という思いの一方で、「かと言って、プレスのために30万円かけて、さらに自費でレコーディングをするとなると、現実的には借金でもしないとムリなレベルだし…」という経済的な限界もあるわけです。それだけ、当時の僕らには「30万円」という金額は天文学的な数字で、僕らは3人組のバンドだったので、ひとり頭10万円だとしても、親に頭を下げて借金でもしないと捻出できないレベルの金額でした。

その後の僕をも救った師匠の言葉

僕らは本当にお金が全然無かったので(音楽活動は機材投資などで出費が大きく、がんばってアルバイトをしても、いつも貧乏でした)、すぐに返事をすることができずに数日保留にしました。

僕の目が完全に覚めたのは、その数日の間に行ったギター教室でした。半生記にも書きましたが、当時僕はプロのギタリストの濱中祐司氏のギター・クリニックで週に一度ギターを習っていたのですが、業界に精通している師にも相談してみようと思い、レコード会社から提案された件を聞いてもらったのです。もう15年も前のことなので、言葉は正確ではありませんが、僕と師匠の会話はこんな感じでした。

僕:「…というワケなんですよ。僕としてもチャンスを逃したくないし、でもお金も無いし…というわけで、悩んでるんですけど、どうするべきだと思いますか?」

浜:「いや、ゲンキが『絶対その話乗りたい!』って思うなら止めないけど、『やるべきかどうか?』って聞いてるなら、それは絶対やるべきじゃないよ

僕:「え? どうしてですか? だって大手レコード会社の人が目に留めて声をかけてくれるなんて機会、そうそう無いですし、その担当者は僕らを認めてくれてるんですよ?」

浜:「いやいや、まずそこから考え直そうよ。もし自分が逆の立場(つまりレコード会社の担当者)だとしてだよ? 本当に自分が才能を見いだしたアーティストに『金だしてください』って言うと思うか?

僕:「!! 確かに、絶対言わないですね…。断ります、この話!」

翌日、僕はレコード会社の担当者に断りの電話を入れました。

笑えない「よくある話」

ちなみに、この話は特別ひどいケースというわけではなく、前述の通り音楽・イラスト・絵本・女優俳優等の業界でもある意味日常茶飯事で、騙す方も騙す方ですが、かつての僕らのような夢を持つ若者側も、まさに「藁にもすがる思い」なので(これは、ある意味周囲に対する見栄なども手伝っていると思います が…)、僕らに限らず、かなり多くの若者が真に受けてしまって、お金さえあれば投資だと信じてお金を出してしまう現状があり、笑えない「よくある話」なのです。そして、同じ立場で(師の言葉無しで)断る判断をできる人(特に若者)は、意外に少ないと思います。意外と人は「あなたは才能を持っている!」とか、「人と違う何かを感じる!」と言われると、それだけでまんざらでも無い気分になってしまうもので、特に他人の反対を押しのけて夢を追っている人には、この手の言葉は本当に強い誘惑となり得るのです。

当時の僕は全国に流通網を持つ大企業が、まさか貧しい若者をそそのかす商売をするとは思わなかったわけですが、相手からするとまさにその思い込みこそが「つけいるスキ」なのです。しかも、あとあと考えれば、半額をその会社が出すことさえ疑わしく、本当は初版費用は全額で300万だったのではないかとすら思います。

また、こういったことが未だに日常茶飯事だという根拠としては、同様の「悪徳ビジネス」が今なお隆盛だからです。また別の機会に書くつもりですが、絵本や書籍の自費出版業者(大手が数年前に倒産しましたが…)やセミナー、そして○○養成学校(講座)などの半分以上は、そういった要素があると言うことができ、また知る限りにおいてでさえ、騙されて泣き寝入りする若者があとを絶えません(あるいは、騙されたことにすら気付かない人も、また多い)。

余談ですが、そのレコード会社は、その当時はそのように若者から小銭を集めざるをえないほど困窮しており、間もなくつぶれてしまうのではないかと思われましたが、たまたまその後アイドル路線のビジネスがヒットし、今ではりっぱに息を吹き返しているようです(もう、悪徳ビジネスもしていないことでしょう・笑)。

それから、これを読んで「もしかして、自分のビジネスは悪徳かも」と思った人は、なるべく早くその仕事から足を洗って、若者を騙すのではなく、本当に若者の応援をするか、せめて邪魔をしない仕事に転向できるように努力してほしいと切に願います。

まとめ

長くなりましたが、最後に、僕は(特にイラスト・音楽・役者業・ダンス・執筆等の業界を目指す)若い人に、この言葉を伝えたいと思います。

「本当にあなたに才能を見いだしている人は、あなたに『金を出せ』とは言わない」

もちろん、これは原則としてであって、例外はあるかもしれませんが、例外の割合は1%くらいです。また、直接的に「金を出せ」と言うのではなく、「無償で働け」とか「安く働け」というのも、本質的には同じことです。

ですから、「金を出せ」という人しか寄ってこないうちは「自分の能力が足りてない証拠」と謙虚に受け止めて、甘い言葉は退けて、本質的な自己投資にお金や時間を使うようにしてください。

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